親指しか動かない男の話

グレーの猫に邪魔されながら
自宅書斎にて、、

あなたの元に
一人のクライアントが
来たとします。

そのクライアントは
車椅子でやってきました。

激痛をともなう
全身の関節炎に苦しめられ、
ひどく怒っています。

身体で動かせるのは
頭と”片方の親指”だけ。

「世の中、ふざけるな!
なんで俺がこんな目に
遭わないといけないんだ!」

「親指しか動かないなんて
死んだも同然だ!」

「なんのために
生きろっていうんだ!」

彼は大きな声で
怒りを撒きちらしていました。

近くにいる家族は
体の介護より
彼の怒りの声に
疲弊していました。

困った家族は
なんとか怒りを
しずめて欲しくて

何人もの
医者
カウンセラー
コーチ
のもとへと
彼を連れていったそうです。

しかし、
変わることはなく
藁にもすがる状態でした。

あなたはまず丁寧に
話を聞きました。

それでも彼は
大きな声で怒りを
撒き散らしていました。

さて、質問です。

もしあなたが、
このクライアントの
コーチ・セラピスト
カウンセラー
だったとしたら、

この瞬間、
彼にどのような態度で
何を伝えますか?

遊びだと思って
10秒だけ
考えてみてね。^^



これは
アメリカの
有名な精神科医である
ミルトン・エリクソンの
有名な症例の1つです。

ミルトン・エリクソンは
NLPでモデリングされた方でも
ありますね。

有名な方なので
ご存知の方も
いらっしゃると思います。

「最も最短で
最高の成果を出す
世界一のセラピスト」
とか

「心の魔法使い」
とも言われています。

私は
エリクソンが
大好きなんです。

セッションで
どのようなフィードバックを
すべきか迷った時はもちろん、

暇で
ダラダラしている時にも
趣味として
エリクソンの本をよく読みます。

エリクソンは
すごく真面目に
セッションをするんですが、

時に珍回答をするというか、
とにかくおもろい人だなと
思うんです。

さて、
エリクソンは
この怒りを撒き散らす
車椅子で
親指だけ動かせる彼に
なんと言ったのか?

エリクソンは
クライアントと同じように
怒りながら強い大きな声で
こう言ったんです。

「あなたは運動不足です!」


え?

ってなりません。

病気で
ほとんど体が動かないから
車椅子なのに、

その人に
「運動不足です」
って言っちゃう??

え、まじで??
と思いました。

「動かせる親指が
あるのだから、
それを動かさないと
いけません。

毎日、その親指を
動かす練習をして、
時間をやり過ごすんです!」

と指示しました。

クライアントは
当然、反発しました。

「親指だけを動かす運動など
意味がない!」

だけど
エリクソンは負けません。

彼に劣らない
怒りの雰囲気で
「親指を動かす
運動をするのです!」

彼はエリクソンが
あまりにもしつこいので、

この指示に意味なんてない、
ということを
逆に証明することにしました。

ムキになって
来る日も来る日も
怒りながら
親指を動かす練習を
続けたのです。

「ふざけるな!
お前に親指しか動かない
俺の気持ちなんて
わかるわけないだろ」

クライアントは
そんな気持ち
だったのではないかと
推測します。

そして、ある日、
彼はふと
親指の隣の
人差し指が少し動くように
なったことを発見したのです。

彼はさらに夢中になって
親指を動かしました。

しまいには
他の指まで
動かせるようになりました。

さらに
手首や腕まで
動かすことができるように
なったのです。



最初の面談から1年後。

彼はまた
エリクソンと
面談していました。

腕が動くようになったことは
喜ばしいこと
だったことでしょう。

さらに、
エリクソンは
なんと言ったと思いますか?


「腕が動くのなら働きなさい。
小さな小屋の
ペンキを塗るのです」

と。

私は
また、まじか?
と思いました。

車椅子で片腕だけが動く人に
小屋のペンキを全部塗るなんて
できるのだろうかと。

一体何時間
かかるのだろうかと。

痛みは大丈夫なのだろうかと。

クライアントは
やはり大きく抵抗して
怒りました。

「そんなの無理に
決まっている!」

それでも
エリクソンは譲りません。

彼は
エリクソンへのふざけるな、
という想いを
きっと抱えながらも、

痛みを感じながら
ペンキ塗りなんて
意味はないことを証明したくて
ペンキを塗り始めました。

そして、

とうとう
小屋のペンキを
塗り終えたのです。

その後
数年という長い月日をかけて、

彼は
トラックの運転手になり、

組合の長に選出され、

教育が必要との想いから
自ら大学にも
通うようになりました。

この期間ずっと
もちろん
痛みがなくなったわけでは
ないんです。

大学に通うようになってからも
関節症の重い症状は
残っていました。

雨季の3日~1週間は
関節症の痛みのため
ベッドから
出られなかったとのこと。

ただ
かつて怒りの源だった
ベッドでの療養生活の
時間については

「やっとゆっくりできる」
と心待ちに楽しみにしていた
そうです。笑

痛みが強く
ベッドで寝ているからこそ
忙しくて読了できていない本を
読める、
と語ったそうです。


これは実話です。

すごいですよね。

何がすごいのか。

私が思ったのは

まず
「あなたは運動不足です!」
とクライアントに負けない
怒りをぶつけて
言った場面です。

エリクソンは
ミラーリングしたのです。

怒り爆発の相手に、
普通に話をしたのでは
届かないと察し、

鏡のような
同じ態度で挑んだのです。

それが私にも
できるだろうかと
想像していました。

ふと母親との関係を
思い出しました。

母が大声で
怒ってくる態度に、

私も同調し
大声で怒る態度で
返したことは何度もあります。

でもそれでは
関係がさらに
悪くなっただけでした。

つまり
ただ反応して
一緒になって怒るのではなく

冷静さを持ちながら
ミラーリングすることが
大事なのだろうと
考えていました。

さらにミラーリングだけでは
ないのでしょう。

クライアントは
“ない”ものばかりに
フォーカスしていました。

それを
「親指を動かせる」という
と今”ある”ものに
フォーカスを向けさせることが
大事だったということでしょう。

後にエリクソンは
このように語っています。

「クライアントの
現在の状況との関連で
成就できそうな
何か小さな良いことを
探求すること」

今あるものを使うこと、

それで小さな成功を
体験させるということ。

さらに

「正しく理解すべき
重要ポイントは
“完璧”はセラピーの
適切な目標ではない」

とのこと。

クライエントの関節炎は
完治したわけではないのです。

ときに
3日~1週間も
ベッドから出ることが
できなかったのですから。

完璧でなくてもいい。

以前より
成長すること。

これが重要なのでしょうね。

またさらに

「親指を動かし始めることで、
このような
素晴らしい未来になると
想像していたのか?」

という質問に対して
エリクソンは
「そんなことは想像していない。
たまたまだ」

と語ったそうです。

(たまたまなんかいっ!)

ただあまりにも
クライアントが
怒ることに
夢中になっていたので、

何か別のことに
夢中になることに
一旦かけてみただけ、

いちかばちか
だったそうです。

ああ、時に
いちかばちかでも
いいのだ、

と嬉しくなりました。

親指を動かすことが
もしも
うまくいかなかったら
また別の方法を
考えればいいだけ、
と思っていた
とも語ったそうです。

エリクソンの
同じ症例を何度読んでも
毎回違う気づきがあります。

今回は
まるで親指を
少しずつ動かすように

私は今、
自分にあるものを
一歩ずつ進めるしか
ないのだなと思いました。

そして
小さなできたことを
自分と喜びたいです。

あなたは
この話から
何を感じましたか?

今日もありがとうございます。

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